形状記憶合金: 生体適合性を有する超軽量合金の可能性を拓く

2024年04月08日

サイクル熱処理の異常粒成長への影響を検討、Mg–Sc合金の超弾性特性の向上に成功

本研究を主導した須藤教授(左)と安藤准教授(右)

形状記憶合金(SMA)は航空宇宙分野や医療分野で注目される新素材だが、それら分野での更なる応用展開を実現するには、Ni、Fe、Co、Cuなどの重金属をベースとする従来とは異なる新しい合金系の登場が待ち望まれている。Mg–Sc合金は、極めて密度が低く生体適合性を持つことから、有望な新しいSMA素材として期待されている。しかし応用に向けては、Mgベース合金における形状記憶メカニズムの精査が必須である。

須藤教授と安藤准教授が率いるAIMRの研究チームは、多結晶Mg–Sc合金の超弾性に及ぼす結晶粒サイズの影響に注目して研究に取り組み、2023年にその成果を発表した1

須藤教授は、「結晶粒の粗大化は、従来のCuやFeをベースとしたSMAの超弾性を改善するアプローチとして知られています。Mg–Sc合金の超弾性特性を向上させることを目標に、本研究では、サイクル熱処理(CHT)を用いて異常粒成長のメカニズムについて精査しました」と、研究について語っている。

さまざまな条件でCHTを施したMg–Sc結晶粒を解析した結果、保持温度が低いほどより効率的に粒成長すること、溶体化処理時間が長いほど大きく均一な粒が得られること、加熱速度が遅いほどよりシャープなサブグレインを得られることが明らかになり、このような条件でCHTを施すことでMg–Sc超弾性が改善することが示された。

「CHTがMg–Sc結晶粒の粗大化に与える影響を理解することは、生体適合性をもつ超軽量SMAを開発するための重要な一歩です。私たちはこれまでの研究から、合金の組成と微細構造を利用して、Mg–Sc合金の強度や延性を制御できることを示しました2。次世代の革新的なSMAや関連材料を設計する際、こうした特性の制御は重要な課題です」と、須藤教授は本研究の意義について述べている。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Yamagishi K., Onyam K., Ogawa Y., Ando D. and Sutou Y. Abnormal grain growth through cyclic heat treatment in a Mg–Sc alloy Journal of Alloys and Compounds 938, 168415 (2023). | article
  2. Yamagishi K., Ogawa Y., Ando D. and Sutou Y. Adjustable room temperature deformation behavior of Mg–Sc alloy: From superelasticity to slip deformation via TRIP effect Journal of Alloys and Compounds 931, 167507 (2023). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。