キラル光学: キラルペロブスカイトのナノ結晶成長のためのヘリカルリボン状テンプレート

2024年03月25日

らせん状のナノケージ内での結晶化で、メゾスコピックなキラル光学特性を持つ物質を創製

本研究を主導した小田玲子博士

キラル光学は、キラルな光とキラルな物質との相互作用を理解し、コントロールを目指す分野で、キラルなセンシング、光通信、バイオイメージング、医薬品開発への応用を主眼としている。光におけるキラリティは、波長や強度などだけでは得られない情報を提供する。そのため、近年、キラル光学効果の向上を目指し、可視光波長を含む範囲内(10nm~1µm)にあるメゾスコピックキラル構造をターゲットとするアプローチが台頭しつつある。

しかし精密なメゾスコピック構造を正確かつ再現性高く作製することの難しさが、このアプローチの大きな課題となっている。というのも、メゾスコピック構造は、ボトムアップで作製するには大きすぎ、トップダウンで作成するには小さすぎるため、従来の手法が適用できないのだ。

2023年、小田博士らは、再結晶法によってペロブスカイトナノ結晶(PNC)を成長させるための鋳型として、自己組織化によって得られたナノサイズのらせん状シリカリボン構造内のナノ空間を利用するという独自のアプローチによって、この問題を解決した1

Cs+、Pb2+、Br-の前駆体の過飽和溶液を用いて得られたらせん状PNCは、ナノメートルレベルで正確なキラル形態を持つだけでなく、強い円偏光二色性や強い誘導円偏光発光などの顕著なキラル光学特性を示した。

「今回の研究では、キラル配位子やキラル分子前駆体を用いることなく、これまでに確立された自己組織化を利用した鋳型作製手法と簡単な再結晶法を組み合わせることによって、キラル光学特性を持つメゾスコピックらせん状PNCを作製できることを示しました。この手法は非常に汎用性があり、今回のPNCだけでなくいろいろな物質のキラル結晶化に使うことが出来、非常に将来性を期待できます。私たちの知る限り、これはこれまでに実証されたことのない成果です」と小田博士は本研究の意義について語っている。

今後はこのアプローチを用いて、キラル光信号の増強/打消しを含む、キラル光キラルをターゲットとする2次元または3次元の超物体構造作製を進めていく予定だ。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Liu P., Battie Y., Kimura T., Okazaki Y., Pranee P., Wang H., Pouget E., Nlate S., Sagawa T. and Oda R. Chiral perovskite nanocrystal growth inside helical hollow silica nanoribbons Nano Letters 23, 3174 (2023). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。