強誘電体材料: 準粒子『フェロン』を解き明かす

2024年01月09日

強誘電体分極の動的輸送現象の解明を目指して

研究について議論するTang特任助教(左)とBauer教授(右)

強誘電体材料(FEMs)はその複雑さゆえ、材料の作製、特性評価、モデリングが困難であると知られている。またマグノン準粒子に関する研究の進展により、動力学や輸送特性など、磁性材料の物理的性質に対する理解が深まっているが、FEMsやフェロン準粒子については未解明な部分が多く残されている。

AIMRのPing Tang特任助教は「FEMsの動力学に関する理論研究の多くは、調和領域に焦点を当てています。しかしながら、これらの手法では、強誘電体分極特有の運動方程式の非線形性が考慮されておらず、フェロンの概念が完全に抜け落ちてしまいます」と、現状の課題について説明する。

2022年、Tang特任助教、Bauer教授らの研究チームは、この課題の解決を目指して、変位型FEMsに対して系統的に非調和性を導入することで、まだ謎のヴェールに包まれたフェロンの本質に迫ろうと試みた1。また、Landau-Ginzburg-Devonshire理論を用いて、フェロンが担う静的な電気双極子を定量化した。このパラメータは、磁性材料でいえば、マグノンが担うスピンや磁気モーメントに相当する。

さらに、熱と電気双極子の両方を輸送するフェロン励起が同定されたことにより、低温時の焦電係数や電気熱量係数、ペルチェ係数やゼーベック係数、電界依存の熱伝導率、強誘電性ファンデルワールスヘテロ構造におけるフェロンドラッグ熱電特性など、FEMsの特性を予測できる可能性が示唆された。

「FEMsの動的輸送特性は、最近までほとんど注目されていませんでした。これはフェロンの動的輸送特性に関する初の報告であり、今後は『フェロニクス』という新しい分野を開拓し、先行している磁性材料とのギャップを埋めていきたいと考えています」と、Tang特任助教はコメントしている。

今後は、茨城県つくば市に拠点を構える物質・材料研究機構(NIMS)と協力し、フェロン励起のさらなる実験的観測を目指していく。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Tang, P., Iguchi, R., Uchida, K. & Bauer, G.E.W. Excitations of the ferroelectric order Physical Review B 106, L081105 (2022). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。