電極触媒反応: グラフェン電極の新製法で触媒特性も向上

2017年03月27日

少量の窒素、硫黄、リンの導入が、ナノ多孔質グラフェン電極の水素発生能を高める

微量の窒素、硫黄、リンを導入した多孔質グラフェンを用いた電極は、水を電気分解して水素を発生させる能力が高い。
微量の窒素、硫黄、リンを導入した多孔質グラフェンを用いた電極は、水を電気分解して水素を発生させる能力が高い。

© 2017 Y. Ito et al.

水を電気分解してクリーンな水素ガスを発生させる触媒が、炭素系材料から作製された1

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の伊藤良一准教授は、「水の電気分解は、風力、太陽光、水力などを利用して発電された再生可能エネルギー電力の貯蔵手段として、ますます重要になっています」と言う。「従来、水素発生電極には白金が使用されてきましたが、白金は非常に高価なので、私たちは金属を使わない電極を探索しています」。

今回開発された新しい水素発生電極はグラフェンをベースにしている。グラフェンは原子レベルの薄さの炭素シートで、強度に優れ、柔軟で、電気伝導性がある。理論的には、グラフェン系電極に硫黄、リン、窒素原子を添加(ドープ)すると、白金電極と同等の触媒性能が得られると予想されているが、現時点では、そこまで高い性能は実現していない。

今回、AIMRの伊藤准教授と陳明偉(Mingwei Chen)教授が率いるチームは、グラフェンにドープする3種類のドーパント原子の量と位置を慎重に制御することによって、水素発生電極を改良した。

研究者らは、ニッケルナノ粒子から作製したナノ多孔質ニッケルを鋳型として用い、炭素、水素、硫黄、窒素、リンをさまざまに混合したガスを加えた。750℃まで加熱すると、ナノ多孔質ニッケルの細孔の表面が原子3~6個分の厚さのグラフェン層で覆われ、さまざまな量のドーパント原子が層内に取り込まれた。その後、ニッケル鋳型を酸で溶かすと、直径50~2000ナノメートルの細孔をもつ多孔質グラフェンが得られた。細孔があることでグラフェンの表面積は大きくなり、水中の水素イオンがグラフェン層の触媒活性サイトに近づきやすくなる。

細孔サイズの小さいニッケル鋳型を使うと、曲率が高く、構造内に欠陥を生じたグラフェンが得られ、そこにドーパント原子が入り込むことができる。特に、細孔径50~100ナノメートルのグラフェンの化学的反応性の高い位置では、3種すべてのドーパント原子の濃度が最も高くなっていた(図参照)。

研究チームは、1種、2種、3種の元素をドープしたナノ多孔質グラフェン試料の水素発生能を測定し、ドープしていないナノ多孔質グラフェンと比較した。その結果、白金電極の触媒活性には及ばないものの、3種の元素をドープしたナノ多孔質グラフェンの触媒活性が最も改善されていることが明らかになった。

研究者らは、3種のドーパント原子の存在によりグラフェン表面の電荷分布が変化し、負電荷領域と正電荷領域のバランスがよくなり、反応時に水素原子(H)が吸着して水素分子(H2)が脱離するプロセスが起こりやすくなると考えている。細孔サイズを利用してドーピングを制御することにより、材料を微調節して、触媒特性をさらに向上させることができるはずだ。

References

  1. Ito, Y., Shen, Y., Hojo, D., Itagaki, Y., Fujita, T., Chen, L., Aida, T., Tang, Z., Adschiri, T. & Chen, M. Correlation between chemical dopants and topological defects in catalytically active nanoporous graphene. Advanced Materials 28, 10644–10651 (2016). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。