ナノ多孔質金: 筋肉の化学物質を検知する高感度バイオセンサー

2017年01月30日

大きさの異なる細孔を有する多孔質金膜を用いた高感度バイオセンサーによって、筋肉細胞から放出される微量の化学物質を検出することができた

マクロスケールの細孔とナノスケールの細孔の両方を有する多孔質金膜を用いることによって、筋肉から放出される微量のスーパーオキシドアニオンを検出できる高感度バイオセンサーが作製された。右側の蛍光画像中のピンク色の領域は、スーパーオキシドアニオンを放出する筋肉細胞の核を示している。
マクロスケールの細孔とナノスケールの細孔の両方を有する多孔質金膜を用いることによって、筋肉から放出される微量のスーパーオキシドアニオンを検出できる高感度バイオセンサーが作製された。右側の蛍光画像中のピンク色の領域は、スーパーオキシドアニオンを放出する筋肉細胞の核を示している。

© 2016 Ali Khademhosseini

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、大きさの異なる細孔を有する金膜を用いることによって、筋肉から放出される微量の反応性化学物質をモニターできる高感度バイオセンサーを作製した。このセンサーは、骨格筋組織の代謝や機能に関する理解を深めるのに役立つことが期待される。

骨格筋が疲労すると、スーパーオキシドアニオンという反応性化学物質が生成する。通常の筋肉活動でも微量のスーパーオキシドアニオンが生成するが、この化学種は極めて毒性が強いため、量が多くなるとさまざまな問題につながるおそれがある。AIMRのAli Khademhosseini教授は、「高濃度のスーパーオキシドアニオンは、筋肉組織の機能低下、老化、損傷を引き起こす可能性があります」と言う。

今回Khademhosseini教授らは、微量のスーパーオキシドアニオンを検出できる高感度センサーを開発した1

このセンサーの特徴は、マクロスケールの細孔とナノスケールの細孔を併せ持つ多孔質金膜を使用している点にある。一般的なナノ多孔質金は微細な孔が無数にあいているため、表面積は大きい。けれどもKhademhosseini教授は、「従来のナノ多孔質金の問題は、その材料内部が触媒と接触できていないことです。いくら表面積が大きくても、ナノスケール孔のみを持つ材料では、その材料内部まで有効に触媒を浸透させることが出来ないからです。ですので、ナノ多孔質金にマイクロスケールの孔を併せ持たせることが熱望されていました」と指摘する。

そこで、研究者らは、マクロスケールの細孔を持つニッケルフォームを鋳型にしてナノ多孔質金膜を作製し、金膜にマクロスケールの多孔性を付与した(図参照)。これにより、媒質にさらされる領域の割合を大幅に増やすことができた。なお、生体に有害なニッケル鋳型は、化学的に除去された。

こうして得られた多孔質金膜に酵素を固定化した電極を用いて、マウスの筋肉細胞で生成するスーパーオキシドの濃度を測定したところ、このバイオセンサーの感度は従来品と比較して2~3桁も高く、その有効性が実証された。

感度の高さから、今回のバイオセンサーは非侵襲的測定に適していると言える。「スーパーオキシドの生理的濃度は著しく低いため、従来の高感度電気化学バイオセンサーでは目的部位の近くに設置しなければならず、安全な in vivo動作には不向きでした」とKhademhosseini教授は指摘する。「これに対して、今回開発したセンサーは、はるかに低い濃度のスーパーオキシドを検出できるため、損傷部位から離れたところに設置することができます」。

研究者らは、このバイオセンサーを用いて、骨格筋組織に電気刺激を与えたときのスーパーオキシドアニオンの放出速度を調べる予定である。また、大小の細孔を利用する今回の手法は、多種多様なバイオセンシングに応用できると期待している。

References

  1. Sadeghian, R. B., Han, J., Ostrovidov, S., Salehi, S., Bahraminejad, B., Ahadian, S., Chen, M. & Khademhosseini, A. Macroporous mesh of nanoporous gold in electrochemical monitoring of superoxide release from skeletal muscle cells. Biosensors and Bioelectronics 88, 41–47 (2017). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。