金属ガラス: 隠れた緩和を見つける

2016年10月31日

金属ガラスの緩和時の構造変化を直接裏付ける証拠が得られたことで、超高靭性合金の商業化が進むと期待される

金属ガラスの走査型透過電子顕微鏡(STEM)像。室温まで冷却された後も原子が動くことのできるクラスター領域(顕微鏡写真中の暗い部分)があるのが分かる。
金属ガラスの走査型透過電子顕微鏡(STEM)像。室温まで冷却された後も原子が動くことのできるクラスター領域(顕微鏡写真中の暗い部分)があるのが分かる。

参考文献1より複製。CC BY 4.0の下でライセンスされている。© 2016 F. Zhu et al.

金属ガラス合金は鋼鉄よりも高強度だが、熱誘起脆性があるため、実用化はあまり進んでいない。今回、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究チームは、動的顕微鏡法を用いて、金属ガラスの特性の決定に重要な役割を果たすナノスケール構造を明らかにした1

ジルコニウム、アルミニウム、銅などの溶融金属を過冷却することによって作られる金属ガラスは、規則的な結晶構造を持たず、原子がランダムに配列して密に詰まった固体を形成している。これらの原子は、高エネルギー状態から低エネルギー状態へと移行する際に、α緩和とβ緩和という2種類の過程によって機械的に緩和する。最初のα緩和は混合物の温度がガラス転移温度未満になると消失するが、2番目のβ緩和は鋳造後も持続するため、こうした原子の動きは「エージング効果」や永久塑性変形につながる可能性がある。

β緩和は、その重要性にもかかわらず、部分的にしか解明されていない。理論モデルからは、ガラス中の空間的な不均一性がエージング効果の原因であることが示唆されているが、その裏付けとなる証拠は得られていなかった。AIMRのFan Zhu研究員は、「これは動的過程です。β緩和のような時間依存性の現象を捉えられるような評価実験をデザインするのは難しいのです」と言う。

Zhu研究員と陳明偉(Mingwei Chen)教授らは、ガラス転移点未満の温度で、さまざまな時間にわたって金属ガラスを加熱することにより、β緩和の程度を調節する手法を開発した。次に、振幅変調型原子間力顕微鏡法(AM-AFM)と走査型透過電子顕微鏡法(STEM)を用いて試料の評価を行い、ナノスケール構造の乱れを調べた。

AFM実験では、振動する微小なカンチレバーを用いて表面原子の高さを測定することが多いが、AM-AFMでは、振動するチップの振幅と位相の変動を測定する。Zhu研究員によると、チップのこうした動きは、金属ガラスがねじれた後に元に戻る弾性固体としての挙動と、構成原子が常に新たな位置へと流動することができる粘塑性材料としての挙動を評価する上で非常に役に立つという。

研究チームは、緩和した金属ガラスの構造的な特徴を、過冷却した金属ガラスと比較することにより、β緩和時の原子の動きが隔離された微小領域に限定されていることを見いだした。これらの領域は、STEMで明暗コントラストのはっきりした直径数ナノメートルの領域として解像できるほど明瞭だった(図参照)。

Zhu研究員は、β緩和とナノスケールの不均質領域の間に明確な関係を確認できたことにより、アモルファス材料のユニークな特性の利用が進むかもしれないと期待し、「この構造の枠組みを用いることで、ガラスの特性とモデルの間の知識のギャップを埋めることができます」と言う。

References

  1. Zhu, F., Nguyen, H. K., Song, S. X., Daisman, P. B. A., Hirata, A., Wang, H., Nakajima, K. & Chen, M. W. Intrinsic correlation between β-relaxation and spatial heterogeneity in a metallic glass. Nature Communications 7, 11516 (2016). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。