一酸化シリコン: 原子配列が明らかに

2016年08月29日

新しい強力な回折法によって、リチウムイオン二次電池の電極材料として有望なアモルファス一酸化シリコンのナノスケール構造が明らかになった

アモルファス一酸化シリコン(SiO)のナノスケール構造。緑色の球は、シリコン(Si)的な構造を持つ領域を形成するシリコン原子を表す。赤色の球と青色の球はそれぞれ、二酸化シリコン(SiO2)的な構造を持つ領域を形成するシリコン原子と酸素原子を表す。
アモルファス一酸化シリコン(SiO)のナノスケール構造。緑色の球は、シリコン(Si)的な構造を持つ領域を形成するシリコン原子を表す。赤色の球と青色の球はそれぞれ、二酸化シリコン(SiO2)的な構造を持つ領域を形成するシリコン原子と酸素原子を表す。

参考文献1より複製。CC BY 4.0 © 2016 A. Hirata et al.

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、最新の実験技術と計算を用いて、アモルファス一酸化シリコン(SiO)のナノスケール構造を初めて明確に決定した1

リチウムイオン二次電池は、モバイル機器から電気自動車まで、電気を使うあらゆる製品に利用されているが、さらなる高容量化をめざして競争が続いている。高容量化の鍵として有望視されているのがシリコン系負極だ。リチウムイオン二次電池の負極には炭素系材料が用いられることが多いが、シリコンは一般的な炭素系材料より多くのリチウムを蓄えることができるからである。シリコンの中でも、結晶シリコンが充電を繰り返すうちに結晶構造が劣化し、電池の性能が損なわれていくのに対して、アモルファス(非晶質)一酸化シリコンでは、そうした構造劣化が比較的起こりにくい。

しかし、一酸化シリコンの性能を十分活用することは困難だった。これまで100年近くにわたって広く研究されてきたにもかかわらず、アモルファス一酸化シリコンの原子スケールの構造が十分解明されていなかったからである。

AIMRの平田秋彦准教授は、「アモルファス一酸化シリコンは、リチウムイオン二次電池の電極材料として有望です」と言う。「しかし、その充放電機構を原子レベルで理解するためには、構造の詳細を知っておく必要があるのです」。

平田准教授と陳明偉(Mingwei Chen)教授らは、物質・材料研究機構(NIMS)や(株)日産アークの共同研究者らと共に、高度な実験技術と計算を用いて一酸化シリコンの構造をナノスケールで決定することに成功した。

研究チームは、平田准教授と陳教授が以前開発した「オングストロームビーム電子回折」という手法を用いて、アモルファス一酸化シリコンのナノスケール領域から回折データを取得した。そして、これにシンクロトロンX線散乱とコンピューターシミュレーションの結果を組み合わせることで、アモルファス一酸化シリコン(SiO)の原子スケールの構造を探った。その結果、シリコン(Si)的な構造を持つ領域と二酸化シリコン(SiO2)的な構造を持つ領域からなり、これらの境界に「亜酸化物」的な構造を持つ領域が存在することが明らかになった(図参照)。

アモルファス一酸化シリコンの原子レベルの構造については、これまで多くの議論があった。例えば、アモルファスSiOはアモルファスSiとアモルファスSiO2の平衡混合物からなるのではないかという提案もあったが、このモデルではX線回折パターンを説明することができなかった。また、アモルファスSiとアモルファスSiO2の境界領域に別の原子配列があるのではないかという説もあったが、実験により確認することは困難であった。従来の実験手法には原子スケールの構造を明らかにできるだけの空間分解能がなかったからである。けれどもオングストロームビーム電子回折では、直径1ナノメートル以下の電子ビームを使うことで、この制約を克服することができた。

研究チームは、独自の手法でアモルファス材料の局所的な構造を原子スケールで決定できたことに確かな手応えを感じている。「一酸化シリコンなどの不均一なアモルファス材料は、次世代エネルギーデバイスにとって非常に重要です」と平田准教授は言う。「私たちの手法を使えば、もっと信頼性の高いモデルが得られるでしょう。この手法は、材料の構造を原子スケールで理解するのに役立つばかりでなく、材料の機能に関する貴重な知見を提供する強力なツールになることが期待されます」。

今後の予定は、同様な手法を用いて、二次電池への応用が期待される他のアモルファス酸化物や相変化メモリーデバイス用のカルコゲニドを解析することだ。

References

  1. Hirata, A.,Kohara, S., Asada, T., Arao, M., Yogi, C., Imai, H., Tan, Y., Fujita, T. &Chen, M. Atomic-scale disproportionation inamorphous silicon monoxide. Nature Communications 7, 11591 (2016). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。