フォトニクス: 多機能分子で有機発光ダイオードの設計を単純化

2016年07月25日

有機発光ダイオード(OLED)は多層型が一般的だが、多機能の大環状有機分子を用いることで、効率を犠牲にせずに単層化することができる

多機能の大環状分子からつくられた単層型白色有機発光ダイオード。デバイスの下に置かれた、研究プロジェクトのロゴを印刷した白い紙は、色の確認用。
多機能の大環状分子からつくられた単層型白色有機発光ダイオード。デバイスの下に置かれた、研究プロジェクトのロゴを印刷した白い紙は、色の確認用。

© 2016 RSC

単純な構造の有機発光ダイオード(OLED)をつくれる多機能の大環状分子が、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らによって発見された1。この発見によって、OLEDの性能を損なうことなく製造過程を単純化できるようになるかもしれない。

電流が流れると発光する炭素系分子の層を持つOLEDは、薄く、軽量で、柔軟で、消費エネルギーが比較的少ないなど多くの利点を持つため、携帯電話やディスプレイなどの電子デバイスにますます多く用いられるようになっている。

多くのOLEDは多層構造になっていて、各層は異なる機能を担う異なる材料からできている。例えば、ある層は負電荷を帯びた電子を輸送し、またある層は正電荷を帯びた正孔(電子が抜けた孔)を輸送する。電子と正孔が出合うと、結合して高エネルギーの「励起子」状態を生じる。ある種のOLEDでは、この励起子を光に変えるためにリン光材料を用いているが、その場合は、電子や正孔がリン光発光体から逃げ出すのを防ぐために、また別の層が必要になる。

単層でこれらの機能の大部分を担える分子があれば、OLEDの製造ははるかに容易になるはずだ。AIMRの磯部寛之教授らは、まさにそうした分子を研究している。研究チームが今回調べたシクロメタフェニレン(CMP)という分子群は、5つまたは6つのベンゼン環が環状に連なった大環状分子だ。

研究チームは、さまざまな種類のCMPを通常のリン光発光体と組み合わせて検討した。中には「全く役に立たない」ものもあったが、5つの置換ベンゼンからなる5Me-[5]CMPは、予想をはるかに上回る機能を持っていた。

5Me-[5]CMPは、電子と正孔の両方を輸送し、電子と正孔が出合って励起子を生じる場となり、励起子をリン光発光体に渡す役割を果たす。重要なのは、正孔を減速させて逃げられないようにし、完全に光に変換させる機能もあることだ。おかげで、約23パーセントという高い外部量子効率を示すOLEDが得られた。この値は、最も効率が良いと報告されている単層OLEDとほぼ同じであり、多層OLEDに匹敵する。高い効率が得られた理由としては、5Me-[5]CMPが柔軟な分子で、イリジウム系発光体に接近して励起子を渡せることが挙げられる。

次に、研究チームは5Me-[5]CMPを赤色、青色、緑色の発光体と混ぜ合わせて、白色OLEDを作製した(図参照)。このOLEDの効率は約10パーセントであった。磯部教授によると、まだデバイス構成を最適化していないので、これはごく初期の実証実験であるという。

研究チームは、さらに高いデバイス効率を可能にする分子を合成するため、CMPの化学合成法を改良している。「AIMRは、そうした学際的研究に理想的な場なのです」と磯部教授。

References

  1. Xue, J. Y., Izumi, T., Yoshii, A., Ikemoto, K., Koretsune, T., Akashi, R., Arita, R., Taka, H., Kita, H., Sato, S. & Isobe, H. Aromatic hydrocarbon macrocycles for highly efficient organic light-emitting devices with single-layer architectures. Chemical Science 7, 896−904 (2016). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。