グラフェン: カルシウムを加えて超伝導化

2016年07月25日

2層のグラフェン薄膜の間にカルシウム原子を挿入することによって、電子が抵抗ゼロで流れる超伝導が発現した

シリコンカーバイド(SiC)基板上に作製した2層グラフェンの層間にカルシウム原子を挿入すると、超伝導が発現した。
シリコンカーバイド(SiC)基板上に作製した2層グラフェンの層間にカルシウム原子を挿入すると、超伝導が発現した。

図中文字
Ca atom: カルシウム原子
Graphene: グラフェン
SiC substrate: SiC基板

© 2016 Takashi Takahashi

グラフェンでの超伝導の発現を示す初の直接的証拠が、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らによって報告された1。超伝導が発現する温度は絶対零度に近い低温だが、電子が抵抗なく流れる(つまり発熱によるエネルギーロスがない)ナノスケールのデバイスの実現に向けた第一歩となる発見だ。

グラフェンは原子1個分の厚さの炭素シートで、炭素原子間を動く電子は、質量がほとんどない粒子のように振る舞う。研究者たちは、グラフェン層が初めて単離されてからずっと、この現象に強い関心を寄せてきた。電子の質量がゼロに近く、非常に高速で移動できるということは、グラフェンが超伝導になる可能性があることを意味するからだ。けれども残念なことに、グラフェン中を移動する電子の数が少なすぎて、ゼロ抵抗の電子の流れを実現することはできなかった。

今回、AIMRの高橋隆教授らと東京大学の研究チームは、グラフェンの電子密度を超伝導の発現に必要なレベルまで高める方法を開発した。シリコンカーバイド(SiC)基板の上に2層グラフェンを成長させた後、その層間にカルシウム原子を挿入することによって、導電性を向上させたのである。

「純粋な2層グラフェンを作製することはとても難しいのです。2層グラフェンだけを作ろうとしても、単層グラフェンや3層グラフェンなどもできてしまい、そうなるとデータ解析が困難になってしまいます」と高橋教授。この問題を克服するため、研究チームは、極めてクリーンな超高真空環境下で実験を行い、グラフェンの成長過程をモニターした。その結果、グラフェンの層数を制御するためには、SiCの加熱のタイミングの最適化が重要であることが分かった。

2層グラフェンの層間にカルシウムを挿入する最良の方法を探すのにも骨が折れた。まず、2層グラフェンにカルシウムを単純に蒸着するだけではうまくいかなかった。おそらくカルシウム原子が大きすぎて、グラフェン層の層間に入り込むことができなかったのだ。「そこで、新たに原子置換法という方法を開発しました」と高橋教授は言う。最初に2層グラフェンに、原子半径の小さいリチウム原子を蒸着して、層間に入り込ませる。こうして層間距離を広げてから、さらにカルシウム原子を蒸着して加熱し、カルシウム原子を層間のリチウム原子と入れ替わらせたのだ(図参照)。

研究チームは、超高真空チャンバー内で、この目的のために特別に作製した4端子マイクロプローブを用いてカルシウム-グラフェン試料の電気抵抗を測定した。温度を徐々に下げていき、4ケルビンまで下がったところで、待ち望んでいた超伝導の証拠であるゼロ抵抗状態が現れた。これに対して、純粋な2層グラフェンやリチウムドープ2層グラフェンでは、超伝導の兆候は見られなかった。

「実験結果に、みんなで大喜びしました」と高橋教授は言う。「この結果は、カルシウム原子からグラフェンシートへの電荷移動によって超伝導が発現することを示しています」。

研究チームは、現在、さまざまなグラフェン層構造と金属原子の組み合わせを調べ、超伝導温度を実用的な温度まで上昇させようと研究を進めている。

References

  1. Ichinokura, S., Sugawara, K., Takayama, A., Takahashi, T. & Hasegawa, S. Superconducting calcium-intercalated bilayer graphene. ACS Nano 10, 2761–2765 (2016).  | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。